Alabama Shakes、11年ぶりの新作!
2019年のブリタニー・ハワード(Brittany Howard)のソロ作『Jaime』が唯一無二の素晴らしい出来栄えだったから、彼女のバンドであるアラバマ・シェイクス(Alabama Shakes)が11年ぶりの新譜『I Must Be Dreaming』をリリースしたと知ってさっそく聴いてみた。結論、今作は同バンドの初期の「ブルース・ロックの新星」というイメージからは随分と進化した、“サイケデリック・ソウルの現在地”と呼べるような作品だった。
アラバマ・シェイクスは2012年に『Boys & Girls』でデビュー。当時は、アメリカ南部のブルースやソウルをベースにしたロックと、ブリタニー・ハワードの強力なヴォーカルを武器に、一躍注目を集めた。2015年の2作目『Sound & Color』ではファンクやR&B、サイケデリック・ロックなども取り込み、より実験的なサウンドへと進んでいる。しかしその後、バンドは活動を休止。ハワードはソロ活動を開始し、2019年に前述の『Jaime』、そして2024年には『What Now』を発表していた。
バンド再始動のきっかけとなったのは、2024年末にアラバマ州タスカルーサで行われたチャリティー・イベントだった。ギター&ヴォーカルのブリタニー・ハワード、ギタリストのヒース・フォッグ(Heath Fogg)、ベーシストのザック・コックレル(Zac Cockrell)が久しぶりに同じステージに立ったことで、3人で再び活動する流れが生まれた。当初からアルバム制作を計画していたわけではなく、演奏を再開したことが新曲制作へと発展していったという。
現在のアラバマ・シェイクスは、この3人を中心とした編成となっており、オリジナルメンバーだったドラマーのスティーヴ・ジョンソン(Steve Johnson)は今回の再始動には参加していない。
音楽的には、ブリタニー・ハワードのソロを挟んでいるためか前作『Sound & Color』からの変化がさらに進んでいる。プロデュースは前作に続いてショーン・エヴェレット(Shawn Everett)。アルバム全体的に強烈なファズを効かせたギター、深いリバーブ、シンセサイザーやフルートなどが使われ、ブルースやソウルを基盤としながら、サイケデリック・ロックやファンクの要素を組み合わせ、“サイケデリック・ソウル”のサウンドが掲げられた。
たとえばロッカ・バラード(3)「Garden」は60~70年代のディープ・ソウルを思わせる楽曲だが、ギターやヴォーカルには現代的なエフェクトが施されている。(7)「Easy」も古典的なリズムを保ちながら、心地よく歪んだギターやヴォーカル・エフェクトなどは従来のブルース・ロックから離れた音作りだ。
歌詞のテーマも、初期作品とは異なる。恋愛や人間関係を扱う(2)「Another Life」や(7)「Easy」、(8)「How Love’s Supposed To Go」などの楽曲に加えて、(4)「I Feel Hope Coming」や(10)「American Dream」では社会や政治への視線が強く表れている。
特に(10)「American Dream」は、現代のアメリカ社会が抱える問題を扱った楽曲であり、アルバムのタイトルとも直接つながっている。歌詞に表れ、アルバムタイトルにも採用された「I Must Be Dreaming」という言葉は、平和や自由が掲げられているにも拘らず現実の国の状況があまりにも酷く感じられるという意味と、それでも世界には美しいものがあるとはずだいう二重の意味を内包している。後半のドラムスのリズムと余白を残したギターは、行き場のない“怒り”の表現そのものだろう。
今作は社会的なテーマを扱いながらも、全体としては悲観的な作品ではない。(4)「I Feel Hope Coming」という曲名が示す通り、現在の状況を批判するだけでなく、そこから希望を見つけようとする視点もある。社会や政治という大きなテーマにも言及しながら、ラストの(11)「Tied To You」では、「あなたを愛している」というとても個人的な、しかし根源的なところへと戻るのだ。
アルバム全体を聴いて特に印象的なのは、ハワードのソロ活動が現在のアラバマ・シェイクスの音楽にも反映されていることだ。『Jaime』や『What Now』でファンク、R&B、ジャズ、エレクトロニック・ミュージックなどを経験したハワードが再びバンドに戻ったことで、アラバマ・シェイクスの音楽も以前よりジャンルの境界が曖昧になっている。その一方で、バンド名を被せただけのハワードの作品になっているわけではない。主要な楽曲はハワード、フォッグ、コックレルの3人によって作られており、バンドとしての共同制作という性格が強い。そこにショーン・エヴェレットのプロダクションが加わることで、従来のバンド・サウンドをさらに拡張している。
今作は、アラバマ・シェイクスという稀有なバンドの音楽的進化と現在地を、ちゃんと確認できるアルバムだ。
Alabama Shakes 略歴
米アラバマ州アセンズを拠点に活動するロック・バンド。2009年結成。ブリタニー・ハワード(vo, g)、ザック・コックレル(b)、スティーヴ・ジョンソン(ds)の3人で活動を始め、のちにヒース・フォッグ(g)が加入した。結成当初は「The Shakes」と名乗り、地元のバーやクラブでレッド・ツェッペリン、AC/DC、ジェームス・ブラウン、オーティス・レディングなどのカヴァーを演奏しながらオリジナル曲を増やしていった。2011年に発表したEP『Alabama Shakes』が注目を集め、翌2012年にATO Recordsから1stアルバム『Boys & Girls』をリリース。全米Billboard 200で6位を記録し、グラミー賞新人賞を含む3部門にノミネートされた。
2015年の2ndアルバム『Sound & Color』はBillboard 200で初登場1位を記録し、グラミー賞では最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム賞を含む3部門を受賞。同作収録の「Don’t Wanna Fight」でも最優秀ロック・パフォーマンス賞、最優秀ロック・ソング賞を獲得し、現在までにグラミー賞4冠・9ノミネートを記録している。
また、2013年には当時のバラク・オバマ大統領政権下のホワイトハウスで開催された「In Performance at the White House」で演奏するなど、デビュー後わずかな期間でアメリカを代表するロック・バンドのひとつへと成長した。