サンパウロの女性音楽家による新グループ Quartinas デビュー
ブラジル・サンパウロを拠点に活動する4人の女性音楽家──フルート奏者/ピアニスト/作曲家レア・フレイリ(Léa Freire)、歌手/ピアニスト/作曲家のタチアナ・パーハ(Tatiana Parra)、ピアニスト/作曲家のタイス・ニコデモ(Thais Nicodemo)、歌手/ギタリスト/作曲家のタリータ・ヂ・ソウザ(Tarita de Souza)が、新グループ・クアルチーナス(Quartinas)を結成。スタジオ録音のデビュー・アルバム『Autumn wind』をリリースした。
メンバーがそれぞれ手がけたオリジナル曲を演奏し歌い、情緒豊かなアーティスティックな作品となっている。また一部の楽曲は作曲者クレジットが「Bashô – Tatiana Parra」となっており、日本を代表する俳諧師・松尾芭蕉(1644 – 1694)の俳句を歌詞とするなど、日本の伝統文化からその精神性も含めて大きなインスピレーションを受けたことが伺える。
アルバムには4人の過去作品の再録も含まれている。
例えば冒頭に収録された2台のピアノ、2人の声の有機的な絡み合いが印象的なレア・フレイリ作曲の(1)「Mamulengo」は彼女の2020年作『Cinepoesia』収録曲。タイトルはブラジル北東部(特にペルナンブーコ州)に伝わる伝統的な手遣い人形(パペット)や、その人形劇を指す言葉で、不協和音を効果的に配置したハーモニー、少し滑稽なリズムがなんとも味があって良い。
ほかに特筆すべき1曲、(4)「Crisálida」はタリータ・ヂ・ソウザとタイス・ニコデモの共作曲で、2人の名義でリリースされたEP『Crisálida』(2019年)で初出の曲。タイトルはポルトガル語で「蛹」で、つづく芭蕉の句「起きよ起きよ 我が友にせん 寝る胡蝶」を元にした(5)「Butterfly」(蝶)のイメージへとつながっている。
(9)「Vento em Madeira」はレア・フレイリの代表曲と呼べる名曲で、彼女が参加する同名グループのアルバム『Vento em Madeira』(2011年)に収録され、ほかにも彼女の関連作や、交友のあるアーティストらの作品にも収録された人気曲だ。
芭蕉の句が引用されているのは、前述の(5)「Butterfly」も含め、以下の4曲。すべて英語で歌われているが、対応している芭蕉の句は下記のとおりと思われる。
(2)「Cherry Tree」 – 姥桜 咲くや老後の 思ひ出
(5)「Butterfly」 – 起きよ起きよ 我が友にせん 寝る胡蝶
(7)「Festival of Souls」 – 数ならぬ 身とな思ひそ 玉祭
(10)「Autumn Wind」 – 物言えば 唇寒し秋の風
アルバムに収録された楽曲群は、ピアノやフルート、“楽器としての声”などが複雑に重なり、極めて音楽的な芸術性が高い。この感覚は、それまで「古びて寂しい」という意味に過ぎなかった「さび」の概念を、閑寂の中に奥深さや趣を見出す高い芸術的境地へと高めた松尾芭蕉の感性にも通じるものだと思う。
Quartinas :
Léa Freire – piano, flute, vocal
Thais Nicodemo – piano, vocal
Tatiana Parra – vocal, piano
Tarita de Souza – vocal, guitar