ジュリア・ゲヂス──街角クラブの血と、自身の芸術表現をバランスよく発揮したデビュー作『Álbum Vermelho』

Julia Guedes - Álbum Vermelho

ミナスのSSW、Julia Guedes デビュー・アルバム

ブラジル・ミナスジェライス州の新星シンガーソングライター、ジュリア・ゲヂス(Julia Guedes)のデビュー・アルバム『Álbum Vermelho』がリリースされた。感の良い人なら、その姓ですぐにピンとくるかもしれない。彼女の祖父はベト・ゲヂス(Beto Guedes)、あの伝説的な“街角クラブ”の重要人物だ。

事実、ジュリア・ゲヂスにとって、クルビ・ダ・エスキーナ(街角クラブ)は自身の半生と切り離すことのできないルーツだ。実際、アルバム冒頭に収録された(1)「Vermelho e Sem Nome」が象徴するように、このアルバムにはその系譜を感じさせる特徴的なリズムやサウンドがある。この曲では祖父ベト・ゲヂスもでギターを演奏しており、さらにヴァギネル・チゾ(Wagner Tiso)が(4)「Zóim」のストリングス・アレンジを担当するなど、その伝統は確実に引き継がれている。

ただ、ジュリア・ゲヂスはそうした親族の過去の栄光に頼り、自身の等身大の超える幻影を作り出そうとしているわけではないようだ。今作の12曲のうち、11曲は彼女自身の作詞作曲。「アルバムの完成に10年かかった」と彼女自身が語るのは決して誇張表現ではなく、長年温めてきたオリジナルを、丁寧に大切に磨き上げた上で選び抜いたということなのだろう。

(7)「Contra o Medo」

(1)「Vermelho e Sem Nome」ではロー・ボルジェス(Lo Borges)を彷彿させるミナス風ロックの要素を前面に出し、(2)「Gata do Mato」では欲望を追いかける女性像を描く。(3)「Chuva e Sol」では恐怖と勇気をテーマにし、(9)「Tango dos Homens」では男女の関係にある力関係をひっくり返してみせる。いずれも、伝統的なMPBの枠だけでは捉えにくい現在的なテーマを扱った楽曲である。

サウンド面では、過度に整えられていないことも特筆したい。レコーディングではファースト・テイクを重視し、演奏者がその場で生み出す勢いを残すことを意識したという。結果として、鍵盤、ギター、パーカッション、ホーン、ストリングスなど多くの楽器が参加しながら、スタジオ作品としての過剰な精密さよりも、バンドが一緒に演奏している感覚が前に出ている。

そのなかでも印象に残るのが(5)「Notas de avião」だ。祖父ベトに捧げたこの曲では、家族の音楽的な歴史が直接的な題材となる。ただし、祖父の音楽を再現するのではなく、ジュリア自身の世代から家族の歴史を見つめ直しているところが面白い。

そして、アルバム中唯一のカヴァーであるラストの(12)「Página do Relâmpago Elétrico」。
この曲はベト・ゲヂスとホナウド・バストス(Ronaldo Bastos)による作品だが、さらにその元となった曲はジュリアの曾祖父でベトの父にあたるゴドフレード・ゲヂス(Godofredo Guedes)にさかのぼる。ベトが1977年のデビュー作でこの曲を録音し、その孫ジュリアが自身のデビュー作の最後に取り上げたことで、ゲヂス家3世代の音楽的なつながりが一枚のアルバムのなかに収まることになった。

過去から逃れようとしながら、過去に支えられている。
その感覚は、アルバムのタイトル「Álbum Vermelho」つまり“赤いアルバム”という感覚にもつながっている。

グラフィック・デザイナーとしてもキャリアを積むジュリアは、曲を作った段階からすでに“赤い”雰囲気を感じていたという。赤は火や動き、革命を連想させると同時に、彼女にとっては音楽、言葉、風景、デザインを結びつける色でもある。今作では楽曲の制作や演奏・歌だけでなく、クリエイティブ・ディレクション、アート・ディレクション、グラフィックデザイン、手描きのイラストまですべて自ら手がけている。

だからこのアルバムは、偉大な家族たちの跡を受け継ぎながらも、ジュリア・ゲヂスというひとりの独立したアーティストとして、その実力を存分に発揮した作品だと捉えていい。

(5)「Notas de Avião」

Julia Guedes プロフィール

ジュリア・ゲヂスは、ブラジル・ミナスジェライス州出身の歌手/作曲家/ピアニスト/マルチ・インストゥルメンタリスト/ビジュアル・アーティスト。2026年時点で24歳。ミナス音楽を代表するシンガー・ソングライターであるベト・ゲヂス(Beto Guedes)の孫にあたり、父はギタリスト/作曲家のガブリエル・ゲヂス(Gabriel Guedes)、母は作曲家のナイッサ・ハジャォン(Naissa Rajão)という音楽的に恵まれた環境で育った。

ピアノを中心とする演奏家として活動する一方、作曲、歌唱、プロデュース、デザインまで幅広く手がけるマルチアーティストで、2023年には「BDMG Jovem Instrumentista」賞を受賞。2023年には国際的なTabuleiro Jazz Festivalにも出演し、2024年には自身の楽曲のみで構成した初の本格的なライブを行った。

2026年8月、Dobra Discosから初のアルバム『Álbum Vermelho』を発表。12曲中11曲を自身が作曲し、アントニオ・ネヴィス(Antonio Neves)とともに音楽プロデュースも担当した。MPBを基盤に、ポップ、ジャズ、ロック、1970年代ブラジル音楽などの要素を取り込みながら、恐怖と勇気、欲望、夢、自己確立といったテーマを自身の言葉で描いている。

いわゆるクルビ・ダ・エスキーナ(Clube da Esquina, 街角クラブ)とのつながりは彼女の音楽を語るうえで避けられないものの、ジュリア自身はその伝統を単純に継承するのではなく、そこから距離を取り、自分自身の世代の音楽を作ることを志向している。また、ミナス・ジェライス連邦大学(UFMG)ではグラフィックデザインを学んでおり、デビュー作では音楽だけでなく、クリエイティブ・ディレクション、アート・ディレクション、グラフィックデザイン、手描きのイラストまで自身で手がけた。音楽と視覚表現を一体のものとして捉える姿勢も、ジュリア・ゲヂスの大きな特長だ。

Julia Guedes - Álbum Vermelho
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