イヴァン・リンスの名曲を、幸せなサンバで歌い継ぐためのアルバム
数々の名曲を世に送り出してきた、ブラジルを代表するシンガーソングライターのイヴァン・リンス(Ivan Lins)。1945年6月生まれの御年81歳だが、現在も定期的にアルバムを発表したりコンサートをしたり(2025年には“80歳&キャリア55周年記念ツアー”と称して来日も記憶に新しい)と、まだまだ現役の最前線を走っている。
そんな彼の新作『Sambadouro』が2026年7月24日にリリースされた。イヴァン・リンスといえば、自身で鍵盤を弾きながら歌う、めちゃめちゃ個性的かつお洒落なAORあるいはジャズ寄りのMPBという印象が強いが、今作では彼自身の長年の念願であったという「サンバ」に全振りしたサウンドで、リラックスしながらも情熱的な演奏を届けてくれた。収録曲は多くが彼の過去作に収録されていた楽曲を伝統的なサンバの編成を軸にアレンジ・再録したもので、古くは名盤『Modo Livre』(1974年)収録曲である(7)「Não Tem Perdão」や(9)「Deixa Eu Dizer」から、ラテングラミー賞受賞作『Cantando Histórias』(2004年)収録の(6)「Porta Entreaberta」など2000年代以降のアルバムからの楽曲、さらにはシモーネ(Simone)に提供した(10)「Parei Contigo」や、セルジオ・メンデス(Sérgio Mendes)に提供した(8)「Sambadouro」のセルフカヴァーなど多岐に富む。
イヴァン・リンスは今作ではピアノは弾かず、ヴォーカルに徹している。バンドは7弦ギターやカヴァキーニョ、パーカッションといったサンバ/パゴーヂの編成で、いくつかの楽曲では魅力的なゲストも登場。詳細なクレジットは後記するが、今作には40人を超えるミュージシャンが参加しており、特にガブリエル・グロッシ(Gabriel Grossi)、アミルトン・ヂ・オランダ(Hamilton de Holanda)、ホジェリオ・カエターノ(Rogério Caetano)といった世界的名手や、ゼガ・バゴヂーニョ(Zeca Pagodinho)、マルチナリア(Mart’Nália)、シャンヂ・ヂ・ピラレス(Xande de Pilares)といった生粋のサンビスタたちの参加は、この作品を彩るだけでなくより深く味わい深いものにしている。
思えばイヴァン・リンスの音楽には、常に情緒豊かなサンバのフィーリングがあった。そして、彼は多くのブラジル人たちと同じように、大勢の仲間たちとの音楽を囲うパゴーヂの時間を愛していた。
“稀代のメロディー・メーカー”イヴァン・リンスが、自身の音楽的根幹であるサンバのアルバムを残した意味・意義は大きい。MPBの偉大な作曲家として既にその絶対的評価を確立したイヴァン・リンスだが、今作によって“サンバの巨匠”としても広く認知され讃えられることになるだろう。過去の多くのサンバの名作と同様、このアルバムは一聴した瞬間にその魅力に虜になり、そのあとの人生において、ときどきふと思い出してはなんとなく聴き返す類の“幸せな感情”に寄り添う素敵な作品だ。
MPBの天才的メロディメイカー、Ivan Lins
イヴァン・リンスは1945年ブラジル・リオデジャネイロ生まれのシンガーソングライター/鍵盤奏者。
父は海軍の技術者で、リオの士官学校での研究をマサチューセッツ工科大学の大学院で行っていたため、幼少期に数年マサチューセッツ州ボストンで暮らしている。
1970年に歌手エリス・レジーナ(Elis Regina)によって録音された「Madalena」が彼の最初のヒット曲となった。70年代以降、数多くのアルバムをリリースしており、特に『Modo Livre』(1974年)や『Somos Todos Iguais Nesta Noite』(1977年)などはMPBの歴史に残る名盤と言われている。
ボサノヴァなどのブラジル音楽にジャズ、フュージョン、AORなどを交えたサウンドが特徴的。
彼の楽曲は極めて複雑なコード・ヴォイシングやコード進行に定評があり、それでいて自然で美しいメロディーのセンスゆえにブラジルの音楽家の中でも個性的なアーティストとして知られている。
Ivan Lins – vocal
Adriano Souza – piano
Alex Almeida – percussion
Alessandro Cardoso – cavaquinho
André Vasconcellos – bass
Ari Bispo – chorus
Bororó Felipe – bass
Bruno Gama – percussion
Carlinhos 7 Cordas – 7-string guitar
Diogo Gomes – trumpet
Diogo Nogueira – vocal
Dirceu Leite – saxophone
Edu Neves – flute
Fabiano Segalote – trombone
Felipe Cavaco – banjo, cavaquinho
Ferrugem – vocal
Flavinho Miúdo – percussion
Gabriel Grossi – harmonica
Hamilton de Holanda – bandolim
Hudson Gomes – guitar
Jussara Lourenço – chorus
Karla Prietto – chorus
Luciano Broa – drums
Luciano King – drums
Márcio Vanderlei – banjo, cavaquinho sol-re-la-mi
Marlon Sette – trombone
Mart’Nália – vocal
Papau do Salgueiro – chorus
Paulão 7 Cordas – guitar
Paulo Bonfim – drums
Pedrinho Pereira – percussion
Péricles – vocal
Rafael dos Anjos – guitar
Rogério Caetano – 7-string guitar
Samuel de Oliveira – saxophone
Thiago da Serrinha – percussion
Vinícius Magalhães – 7-string guitar
Vitor de Souza – cavaquinho
Waltis Zacarias – percussion
Xande de Pilares – vocal
Zeca Pagodinho – vocal
Zé Luiz Maia – bass