ジャズを「知る」前に、その豊かさに触れてほしい──「JAZZ A Living Atlas」を作った理由

JAZZ a Living Atlas

誰もが興味を抱くような、ジャズ文化のビジュアライズを作りたかった

ジャケットが気になって、まだ知らないアルバムに手を伸ばす。参加しているミュージシャンの名前から別の作品へ進み、いつの間にか、最初に聴こうと思っていた音楽とはずいぶん遠い場所にたどり着いている。

レコード店の棚を眺めたり、ライナーノーツを読みながら音楽を聴いたりするとき、そんな寄り道が起こることがある。目的の一枚を見つけるのも楽しいけれど、音楽との付き合いを豊かにしてくれるのは、思いがけない偶然の出会いなのかもしれない。

その感覚を、ウェブの上に作れないだろうか──

そんな思いから生まれたのが、ジャズの歴史と世界の音楽を辿るインタラクティブ・ガイド、「JAZZ A Living Atlas」です。

▷ JAZZ A Living Atlas — ジャズの歴史と世界の音楽を辿る3Dマップ

ページを開くと、地球を背景に、さまざまな時代のアルバムジャケットが立体的に広がります。一枚を選ぶと、その作品を起点に別のアルバムとのつながりが現れる。年代を移動したり、地球を回したりしながら、気になった音楽を探索できます。

作りたかったのは、単にジャズの情報を立体的に並べた図鑑ではありませんでした。

歴史の終点に「現在」を置きたくなかった

ジャズの歴史を紹介するとき、年代順の説明はとても便利です。いつ、どんな音楽が生まれ、誰が何を変えたのか。順を追って読むことで、複雑な流れが理解しやすくなります。

一方で、きれいに整理された歴史には、どこか完結した物語のように見えるところもあります。

けれど、私がムジカテーハで紹介してきた音楽の面白さは、その物語の「続き」にもあります。過去の表現を受け継ぎながら、新しい音楽に触れ、土地ごとの文化や演奏家の経験と混ざり合う。その過程で、思いもよらない音楽が生まれてくる。

ジャズを、過去の名盤が並ぶ棚だけで捉えたくない。今も世界のあちこちで変化し続けている音楽として伝えたい。

「JAZZ A Living Atlas」という名前には、そんな考えが込められています。
完成した歴史の地図ではなく、これからも作品やつながりが増えていく、“生きた地図”です。

だから、このページでは年代と地理の両方を扱っています。時代を辿るだけでなく、地球を回して別の地域へ目を向けられる。同じ時間の中にも、違う場所で育まれたさまざまな音楽があることを、画面の中で感じてもらいたいと思いました。

もちろん、アーティストの出身地だけで音楽を説明できるわけではありません。地球に示す地点は、その人の音楽をひとつの国に閉じ込めるためではなく、そこから先へ探索を始めるための入口です。

ジャズの間口を広げたい

制作中、何度も考えたのが「まだジャズに詳しくない人は、どこから入ればいいのか」ということでした。

実は、このUIができる数日前には、「Jazz History Map」というページを公開していました。

Jazz History Map
Jazz History Map

これはジャズのアーティストやアルバムを年表のように見せ、さらに任意のアーティストやアルバムを選択すると「影響を受けた人」「影響を与えた人」「参加ミュージシャン」といったように任意の作品を起点として次々と新しい作品に出会うことができる、という設計思想を形にしたもので、主に生成AI「Claude」との対話でデザインやコーディングを仕上げていったものです。

なかなか良くできたページになったとは思いますが、ただ、この見せ方だとどうしても“硬い”印象がある。

ジャズをもっと広い人々に楽しんでもらいたいのに、どこか第一印象として知識を求められる(つまり、どれからクリックすれば良いのかわからない)という状態になってしまっていたと思います。

それを回避するために「起源を辿る」「名盤を聴く」という2つのボタンをトップページに設け、お墨付きのアーティストや、いわゆる名盤の数件の候補を出すようにしました。

このページはある程度好評をいただきましたが、ただ、まだまだ自分が求めているクオリティには達していない、という思いがありました。

そこにちょうど登場したのが、OpenAI社の新しいモデル「GPT-6 Astra」(2026/9/3公開)でした。

僕はさっそく、GPTに「Jazz History Map」を見せつつ、自分が実現したい設計思想を熱意をもって伝え、「DBは既存のものをそのまま使った上で、UIをゼロベースで刷新すること」を指示していきました。

そうして数十回のやり取りを経て出来上がったのが、「JAZZ A Living Atlas」なのです。

JAZZ a Living Atlas
JAZZ A Living Atlas

引き算でUIを整理していった

とにかく大事にしたのは、“ページを開いた瞬間にジャズ文化の豊かさに圧倒されるほどの体験”までUIのクオリティを引き上げることでした。

数十分の思考の末、GPTが最初に提示してきたプロトタイプは、ここから改善した先に素晴らしい完成系が見えるクオリティでした(原石のようでした)。

ジャズの広がりを視覚的に表すために3Dで表現された地球、その上に広がるさまざまなアルバムのジャケット・アート。──僕が乱雑に指示した理想的な表現が、拙いながらも形になっていました!

ただ、そのプロトタイプは操作性も未熟ですがUIはまだまだ“過剰”でした。

可読性の悪い小さな文字が“スタイリッシュに”並べられ、ジャンルや地域、年代などの複雑な絞り込み機能がこれでもかと並んでいる状態だったのです。

ジャンル名をたくさん並べ、地域や年代を細かく指定できるようにすれば、探しているものが決まっている人には確かに便利かもしれません。
でも、まだ何を探したいか分からない人に最初から条件を選んでもらうのは難しい。というか、無理です。
ある程度ジャズを知っている方であっても、細分化されすぎたUIを見た途端に面倒臭さの方が勝り、離脱してしまうでしょう。そもそも、知らない音楽との出会いを作りたいのに、知っている言葉で範囲を狭めてもらう必要があるのだろうか??

そこで、上部にあった地域やジャンルの絞り込みを外しました。
検索窓は残しましたが、絞り込みを使わなくても楽しめることが大切だと思ったからです。

「このジャケット、なんかいいな」
「この人、さっきの作品にも参加していた」
「このアルバムの近くには、ほかにどんな音楽があるんだろう」

それくらいの小さな興味で、次の一枚へ進めるようにしたかったのです。

アルバムのジャケット・アートは、そのための大事な入口でした。
名前やジャンルを知らなくても、ジャケットのデザインや雰囲気には不思議と惹かれることがある。音楽を聴く前の、まだ言葉になっていない好奇心を、そのまま探索につなげたいと思いました。

「かっこいい画面」と「気持ちよく使える画面」の間

前述のように、もっとも大切な価値観として掲げていたのが、ページを開いた瞬間にジャズの歴史とその豊かな文化を俯瞰でき、その豊かさに圧倒されるような体験でした。

そのためには、ページを開いた瞬間の最初の画面に力が必要です。
「おっ」と思わせるビジュアルで、大きなタイトルや長い説明文を読む前に作品そのものが目に飛び込んでくるようにしたい。

そこで、当初は大きく取られていたページ上部の紹介部分を削り、タイトルをかなり控えめにしました。その分、アルバムと地球の表示領域を広げ、ジャケットの大きさも繰り返し調整しました。

ただ、ジャケット画像を大きくすれば良いというものでもありませんでした。

手前のジャケットに迫力があっても、その奥の作品が隠れて選べなければ、探索する楽しさが失われます。ズームしたときに見やすく並べ直しすぎると、今度は弧を描く3D空間の魅力が薄れてしまう。

奥行きを残したまま、奥の作品にも手が届くようにする。この細かな調整も、確固とした“設計思想”が根っこにあるからこそできたものだと思います。

ジャズの広がりを視覚的に示すために配置した地球も同じです。
最初は選択したアーティストの出身地が上側に来るようにしていましたが、それではジャケットに隠れるなどして見えにくい。少し前面に傾けてみたあと、最終的には出身地がこちらの正面を向くように変えました。(フォーカスしたアーティストの出身地によって地球がぐるぐる回るのも面白いですよ!)

頭の中では自然に思えた配置が、実際の画面では自然に見えない。
制作中は、そんなことの繰り返しでした。

つながりにも、濃淡がある

作品同士を線で結ぶと、それだけで何かが分かったような気持ちになります。でも、その線が全部同じ強さで見えると、かえって分かりにくくなります。

同じアーティストの作品なのか。共演やグループのメンバーとしてつながっているのか。それとも影響関係にあるのか。

そこで、関連する作品の表示に濃淡をつけました。同じアーティストの作品は濃く、共演・協働やメンバーの関係は少し薄く、影響関係や関連作品はさらに控えめにしています。

年代を探索する画面でも、中心の時代から遠い作品は少しずつ薄く見せています。条件から外れた瞬間に消してしまうより、「少し遠くに、まだ音楽が続いている」と感じられるほうが、この地図には合っていると思ったからです。

こうした濃淡は、音楽の価値や優劣を表すものではありません。今いる場所から、次の一枚を選びやすくするための道しるべなのです。

小さな違和感が、探索を止めてしまう

華やかな見た目を作る以上に大変だったのは、操作中の小さな違和感を取り除くことでした。

別のアルバムへ進んだのに、下部の年代スライダーだけが前の時代を指している。新しい説明を開いたのに、スクロール位置が途中のままになっている。現代の年代を表示していると、検索した昔の作品が見つからない。

GPT-6 Astra(に限らずですが)は、パッと見ではなんとなくすごいUIを提示してきます。
多くの人は、これで「すげー!!」となってその後の調整に思いが及びません。

これは、画面全体をなんとなく眺めているだけでは気づきにくい問題です。

しかし、実際にページを訪問し触ってくれている方にとっては「今、何が起きたのだろう??」と違和感を感じてしまう瞬間になります。

モバイルでは、さらに別の難しさがありました。
アルバムと地球を大きく見せると、詳細説明の存在が分かりにくくなる。スライダーとジャケットが近いと、触りたいものとは別の操作が反応してしまう。

そこで、詳細ウィンドウは画面下部から少しだけ見せ、タップするとせり上がるような形にしました。
そこに選択中のジャケットも添え、何の詳細なのかが一目で分かるようにしています。
年代スライダーは、ほかの操作と干渉しにくい位置へ移しました。

ドラッグして手を離したときの慣性や、作品から別の作品へ移る際のアニメーションも調整しています。中心のアルバムが突然入れ替わるより、位置や大きさが滑らかに変わるほうが、「つながりを辿って、ここへ来た」という感覚を持ちやすいからです。

こういう部分は、うまくできているほど意識されないのかもしれません。それでも、気持ちよく探索を続けてもらうためには欠かせないところでした。

何を残し、何を引くか。

その判断を重ねることで、ようやくこのページの完成形が見えてきました。

次の一枚は、知らない名前かもしれない

このガイドでは、Apple Musicの埋め込みプレイヤーで試聴しながら、別の作品やアーティストを辿ることができます。

音を確かめるために探索を中断するのではなく、一枚を聴きながら、その周囲にある音楽を眺めていく。そこから気になる名前を見つけ、また次へ進む。そんな使い方をしてもらえたら嬉しいです。

もちろん、この地図がジャズのすべてを網羅しているわけではありません。載せたいアーティストも作品も、まだたくさんあります。情報やつながりを確かめながら、少しずつ広げていくつもりです。

ジャズに詳しい人には、知っている作品の隣にある意外な一枚を。これまであまり興味がなかった人には、好きなジャケットから始まる出会いを。

ジャズの歴史を順番に覚える必要なんてありません。
ジャンルの違いを説明できる必要もありません。
ただ、事実としてジャズは100年の歴史の中で世界に広がり、まるで生き物のように、現在もなお進化を続けているのです。

まずは、気になった一枚を選んでみてください!
知らないことに触れてみることで、人生はより豊かなものになるはずです。

▷ JAZZ A Living Atlas — ジャズの歴史と世界の音楽を辿る3Dマップ

JAZZ A Living Atlas キャプチャー

プレスリリース

下記サイトにプレスリリースを掲載いただきました。

JAZZ a Living Atlas
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