鬼才ブラッド・メルドーがソロピアノで奏でる“コロナの時代の音楽”

Brad Mehldau - Suite: April 2020

ブラッド・メルドー、『2020年4月の組曲』を発表

現代ジャズを代表する米国のピアニスト、ブラッド・メルドー(Brad Mehldau)が6月12日にリリースしたソロピアノによる新譜には、『Suite: April 2020』(2020年4月の組曲)というタイトルが付けられている。

アルバムには(1)「Waking Up」から(12)「Lullaby」までのコロナ時代の生活様式に不安と戸惑いを覚えながらも適応しようとしていく12曲の組曲と、その後には彼にとっての大切な曲であるニール・ヤング(Neil Young)の(13)「Don’t Let It Bring You Down」、ビリー・ジョエル(Billy Joel)の(14)「New York State of Mind」、そしてジェローム・カーン(Jerome Kern)の(15)「Look for the Silver Lining」という3曲のカヴァーが収録されている。

ブラッド・メルドーの場合、ヨーロッパツアーの最中に新型コロナ禍に見舞われ、その中断を余儀なくされた。彼は妻でありヴォーカリスト、フルーリン(Fleurine)の出身国であるオランダに滞在し、他の多くの人々と同じように新しい生活を送らなければならなくなった。

このアルバムで彼が音楽で表現していることは、世界中の多くの人々が体験したことでもある。例えば(3)「Keeping Distance」などは右手と左手で離れた音を奏でているが、どこかぎくしゃくとした感じがあり、それが自然な状態ではないことを感じさせる。(5)「Remembering Before All This」には悲壮感が漂い、もう決して以前のような状態には戻れないのではないかという不安がつきまとう。それでも(10)「In the Kitchen」には何とか明るく気持ちを保とうとするような剽軽に戯けた雰囲気があるし、古めかしい牧歌的な曲調で演奏される組曲のラスト(12)「Lullaby」からは、またいつか以前の生活に戻れるという希望の想いが強く感じられる。

作品の売上の一部は「COVID-19 ミュージシャン緊急基金」へ

本作はデジタル配信と同時に1,000枚限定のヴァイナル・レコードが生産されているが、この限定盤の売上は「ジャズ財団COVID-19ミュージシャン緊急基金(Jazz Foundation of America’s COVID-19 Musician’s Emergency Fund)」に寄付されるという。また、9月に通常盤のCDとヴァイナルもリリースが予定されているが、こちらの売上の一部も同基金に寄付されるという。

また、(5)「Remembering Before All This」の楽譜は彼のホームページからリンクされている楽譜販売サイトで無料で公開されている。

ブラッド・メルドーによるアルバムの解説と
(5)「Remembering Before All This」(5:00〜)の演奏。
Brad Mehldau - Suite: April 2020
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