フランスを代表する女性サックス奏者ソフィー・アルール、自己の内面を深く探求する9枚目のアルバム『Le temps virtuose』

Sophie Alour - Le temps virtuose

ソフィー・アルール、自己探求の旅路を描くカルテット作

フランスのサックス/フルート奏者ソフィー・アルール(Sophie Alour)の9枚目のスタジオ・アルバム『Le temps virtuose』に派手さや分かりやすさはない。サックス、ギター、チェロ、ドラムスという編成も珍しいし、ジャズらしいスウィングもない。リズムはあるが、それを強力に推進するグルーヴも希薄。それでも不思議とどこか惹かれるものがあり、ふとしたときに自然と再生してしまうような類のアルバムだ。

カルテットには素晴らしいメンバーが揃う。ソフィー・アルールは全曲の作曲と、サックスとフルートを担当。ギターのピエール・ペルショー(Pierre Perchaud)はアコースティック、クラシック、エレキと様々なギターを用い楽曲に変化をつける。チェリストのギヨーム・ラティル(Guillaume Latil)はベースに中音域、さらにはメロディーとアルコもピチカートも駆使して様々な役割をこなす。現在フランスで最も注目されるドラマーの一人であるアン・パセオ(Anne Paceo)は意外と抑制的だ。彼女はリズムを牽引するようなドラミングはせず、メロディーやコードの動きによって作られる物語にそっと添木を置いているかのようなサポートを見せている。

(1)「Des lendemains qui chantent」

アルバムを聴き進めるごとに、ソフィー・アルールの長い経験が少しずつ本作に反映されていることに気づく。近年の北アフリカや中東音楽の探求の成果は(9)「Ici et maintenant」に如実に表れているし、いくつかの曲ではロックや現代音楽の影響もしっかりと組み込まれている。

どうやら、この作品は聴衆に向けたものではなく、自己探求が目的なのかもしれない。人が大切にしているものが理不尽のうちに奪われたり、それに対して傍観者は声を上げることもしない──この数年間は彼女にとっても、現実は夢のように美しくないと気づくには充分すぎる時間だった。世界にはルールや規範があるはずだが、それは実に脆く儚い。

(4)「Musique pour Dames」

彼女は本作に寄せて、次のような想いを語っている:

今はこれまで以上に、ゆっくりと時間をかけて本質に迫ることがとても重要だと思う。それが私の音楽で心がけていることです。
ヴィルトゥオーゾの時間とは、時の流れのこと。それは私たちを高め、そして破壊するのです…。

sondumonde.fr

Sophie Alour 略歴

ソフィー・アルールは1974年生まれ。13歳頃からクラリネットを学び始め、サックスはほぼ独学で19歳から始めたという。
2000年頃からフランスを代表するトランペット奏者、ステファン・ベルモンド(Stéphane Belmondo)らとクインテットを組み、ジャズシーンでの活躍が始まった。
ウィントン・マルサリス(Wynton Marsalis)やローダ・スコット(Rhoda Scott)、アルド・ロマーノ(Aldo Romano)といった各地の著名ミュージシャンとの共演を経て2005年に『Insulaire』でアルバムデビュー。これまで適度にスタンダードも取り上げつつ自己表現的なオリジナルも演奏するジャズサックス奏者として知られていたが、2020年の前作『Joy』ではエジプトのウード奏者モハメド・アボゼクリ(Mohamed Abozekry)をバンドに迎え、アラブ音楽との融合という新たな挑戦を見せた。

2021年にその音楽キャリアに対して栄誉ある「ジャンゴ・ラインハルト賞」を受賞。2022年には「ヴィクトワール・ド・ジャズ・アーティスト・オブ・ザ・イヤー」を受賞するなど、フランスを代表する中堅サックス奏者として活躍している。

Sophie Alour – flute, saxophone
Pierre Perchaud – guitar
Guillaume Latil – cello
Anne Paceo – drums

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