より深化した、Robinson Khoury “MŸA”
ジャズを基盤に、自身のルーツであるアラブ音楽とエレクトロニカを融合させたシネマティックな音風景が素晴らしい。フランスのトロンボーン奏者/作曲家ロビンソン・クーリー(Robinson Khoury)の新作『Transara』は、前作『MŸA』(2024年)での確かな手応えをより深掘りし発展させたものだ。メンバーも前作に参加していたアニッサ・ネアリ(Anissa Nehari)のパーカッション/ヴォイスと、レオ・ジャセフ(Léo Jassef)のキーボード/シンセ/ヴォイスとのトリオ編成から変更なく、“MŸA”トリオの成熟を思わせる。
やはり印象的なのは(2)「Alaoui Club」などに顕著なアラブ伝統音楽(マカーム)由来の微分音の存在感だ。ルーツを同じくレバノンに有するイブラヒム・マアルーフ(Ibrahim Maalouf)のトランペットを彷彿とさせるそのフレーズを目の当たりにすると、少年時代に合唱団を離れたあと、「歌い続けられる楽器としてトロンボーンを選んだ」という彼の選択が明確に正しかったのだと認識させられる。マカームを演奏するためにトランペットを改造するのは大変だが、トロンボーンなら楽器の改造は必要ないのだから。
アルバムに収録された楽曲の多彩さには驚くばかりだ。決して彼の卓越したトロンボーンだけが前面に出るのではなく、トリオ全体でサウンドを作ろう、何か形あるものを作ろうとしているようだ。ジャズに根差した即興パートが多いだけでなく、マグレブ音楽の祝祭的なトランス感があったかと思えば、内面に深く沈み、静かな祈りを捧げるような曲もある。アニッサ・ネアリ、レオ・ジャセフともにこれまでのキャリアで“オリエンタルな”音楽経験が長く、そうした3人がまさに三位一体で作り上げる世界観は驚くほどに深い。
Robinson Khoury 略歴
ロビンソン・クーリーは1995年フランス生まれ。幼少期から音楽に親しみ、リヨン国立高等音楽院でトロンボーンを学んだ。ジャズを基盤にしつつ、中東(アラブ)音楽やエレクトロニカを融合させた独自のスタイルで知られる。
キャリアの初期にイブラヒム・マアルーフ(Ibrahim Maalouf)やナターシャ・アトラス(Natacha Atlas)とのグループ「SARAB」で注目を集め、メトロポール・オルケスト(Metropole Orkest)のソリストやクインシー・ジョーンズ・オーケストラ(Quincy Jones Orchestra)への参加、さらにルー・ソロフ(Lew Soloff)、マーク・ターナー(Mark Turner)、ミシェル・ポルタル(Michel Portal)、エリック・トラファズ(Erik Truffaz)など著名アーティストとの共演歴多数。
2019年にソロデビュー作『Frame Of Mind』がリリースされ、2022 年には2作目となる『Broken Lines』をリリース。2024年にアニッサ・ネアリ(Anissa Nehari)とレオ・ジャセフ(Léo Jassef)とのトリオで『MŸA』をリリースし、エレクトロ・アコースティックなサウンドやジャズとアラブ音楽の融合が高く評価された。
Robinson Khoury – trombone, modular synths, lead vocal (6, 9)
Anissa Nehari – percussions, voice (6, 9)
Léo Jassef – piano, synths, voice (6, 9)