ギター・レジェンド、パット・メセニー魂の叫び。6年ぶり新作『From This Place』

Pat Metheny - From This Place

パット・メセニー、6年振り新作

盟友ライル・メイズ(Lyle Mays)の訃報が伝えられたのはほんの数日前だった。世界中がこの享年66の名キーボード奏者の死を悼む中で、パット・メセニー(Pat Metheny, パット・メシーニの実に6年ぶりの新作『From This Place』がリリースされた。多くのジャズファン/ギターファンが待ちわびたレジェンドの新作ということは勿論、ライル・メイズの突然の悲報も相まって早くも今年最も注目されたジャズアルバムになることは間違いなさそうだ。

そしてこれは、とにかく聴けば聴くほどに深く、凄みのある作品だ…。

中央には恐怖を煽る巨大な竜巻という、色彩感の乏しい不穏なジャケットに込められた彼の想いをどのようにおもんばかったらよいのだろうか(パット・メセニーの出身である米国ミズーリ州は大規模な竜巻による被害が多い)。
(1)「America Undifined」(漠然としたアメリカ)は、複雑に作曲されたこのジャケットを象徴するような不気味さを放つ13分間におよぶ大作。この曲が彼が今表現したいアメリカだとするなら…1997年にグラミー賞を受賞したチャーリー・ヘイデン(Charlie Haden)との名盤『Beyond the Missouri Sky(ミズーリの空高く)』から受ける清々しく長閑で平和なアメリカという印象とは真逆のミズーリ州、そしてアメリカが見えてくる。──そしてこのインスト楽曲の精神性はデイヴィッド・ボウイ(David Bowie)との共作であり問題作「This Is Not America」(2000年)を想起させるには十二分だ。

重厚なテーマを感じさせる(1)「America Undifined」

パット・メセニーは今もなおコンテンポラリー・ジャズの最前線にいる

今作には近年活動を共にしているピアノのグウィルム・シムコック(Gwilym Simcock)にベースのリンダ・メイ・ハン・オー(Linda May Han Oh)、ドラムスのアントニオ・サンチェス(Antonio Sanchez)といった新世代のジャズを担う素晴らしいミュージシャンを中心メンバーとして起用。2016年末頃からレコーディングをはじめ、以降オーケストラを加えるなど時間をかけて作り込んだ末の発表となっているようだ。

(8)「From This Place」ではミシェル・ンデゲオチェロ(Meshell Ndegeocello )が歌手として招かれ、本作唯一のヴォーカル曲としてその存在感を放つ。
(6)「The Past in Us」ではクロマチック・ハーモニカの名手グレゴア・マレ(Gregoire Maret)がゲスト参加。明るさと哀愁という、矛盾した感情を喚起させる音色を響かせる。

複雑な楽曲構成と恵まれた演奏家たちの中心で、パット・メセニーはいつも通りに優しく美しい包容力に満ちた音色で、鋭く示唆に富んだエレクトリック・ギターを通じて静かな叫びをあげる。
これほどまでに没入でき、聴き返す度に新しい発見のある音楽はおそらく他に数少ないのではないだろうか。

Pat Metheny – guitar, keybords
Antonio Sanchez – drums
Linda May Han Oh – bass
Gwilym Simcock – piano

Guests :
Meshell Ndegeocello – vocal (8)
Gregoire Maret – harmonica (6)
Luis Conte – percussion
Hollywood Studio Symphony Orchestra

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