臨場感あふれる即興性を重視した、Gary Versace 最新作
アメリカ合衆国のピアニスト、ゲイリー・ヴェルサーチェ(Gary Versace)の新譜『Three Track Mind』は、今年(2026年)のジャズ・ピアノトリオ作でベストの一枚だろう。オーソドックスなピアノトリオ編成で、収録曲のうち半数がスタンダードという構成は、一見すると保守的でつまらなそうに思えるかもしれないが、何よりもジャズという音楽の即興によるインタープレイの楽しさに改めて気づかせてくれる。あるいは、2回演奏される「Autumn Leaves」といった古典的な楽曲でさえ、これだけ自由で創造的に生まれ変わることができるのだという最高の事例だ。
ベースはフランス出身の名手フランソワ・ムタン(François Moutin)、ドラムスはテキサス州出身のルディ・ロイストン(Rudy Royston)という編成。ゲイリー・ヴェルサーチはこの2人とそれぞれ別々に共演したことはあるが、この3人が揃っての録音は今作が初めてのようだ(ちなみにフランソワ・ムタンとルディ・ロイストンの2人は、何枚かのアルバムで既に共演している。そのうちの一枚に、人気ゲーム『どうぶつの森』のテーマ曲を演奏したEPもある)。
そして、この3人での演奏が、とにかくびっくりするくらい良い!
今作は事前の綿密なアレンジはなく、その場の即興性を最大限に活かした演奏を追求したようだが、3人がその場で即興的に会話するように反応しあう演奏(=インタープレイ)の醍醐味を存分に味わえる。特に素晴らしいのがベースのフランソワ・ムタンで、自由に歌うように演奏する彼の姿は、ビル・エヴァンス・トリオのレジェンド、スコット・ラファロ(Scott LaFaro, 1936 – 1961)をも彷彿させるほどにクリエイティヴで躍動的だ。
“ライヴの臨場感を再現する”というのは当初からアルバムのコンセプトとしてあったようで、多くの楽曲が演奏の中で即興的に組み立てられてゆく。スタンダードとして定番の(1)「Doxy」や(2)(8)「Autumn Leaves」、(5)「Stella By Starlight」も一筋縄ではいかないほど演奏は機知に富み、かつ彼ら自身が心から楽しんでいるのが伝わってくる。
何物にも忖度のない、最高のジャズを聴かせてくれるアルバムだ。
Gary Versace – piano
François Moutin – bass
Rudy Royston – drums