Shake Stew、10周年を記念する新譜『TEN ONE TWO』で見せたクラウトジャズの到達点

Shake Stew - TEN ONE TWO

終わらない反復、立ち上がる恍惚。シェイク・スチュー新作

オーストリア・ウィーンを拠点とするジャズ集団シェイク・スチュー(Shake Stew)は、2016年の結成以降、その先進的な音楽性で注目を浴び、とりわけクラウトロックの反復するリズムやサイケデリックな感覚と現代ジャズやアフロビートなどを融合させた“クラウトジャズ”の代表格として称賛を浴びてきた。結成10周年を記念して制作された2枚組大作『TEN ONE TWO』は、そうした彼らの歩みを総括すると同時に、次の10年へ向けた宣言でもある。

タイトルが示す通り、本作は「TEN ONE」と「TEN TWO」という二つのパートから構成されており、前者では緻密に構築されたスタジオ作品としての側面が、後者ではライヴさながらの集団即興と身体的エネルギーが前景化している。

2人のベーシスト、2人のドラマー、そして3管という特異な編成が、このバンドの強力な推進力の源だ。
冒頭の(1-1)「Wood (Intro)」そして(1-2)「Wood」から、リスナーはすぐにシェイク・スチュー特有の磁場へと引き込まれてしまうだろう。2本のベースがわずかに位相をずらしながら低域をうねらせ、2人のドラマーが機械的なリズムとアフロビート的ポリリズムを同時に走らせる。その上をサックスとトランペットが気流のように旋律を漂わせ、音楽は次第にトランス状態へと加速していく。

(1-3)「Tristan Junk」ではゲストのJJ・ウィットフィールド(JJ Whitefield)によるサイケデリックなギターが強烈な異物感をもたらし、ジャズとロックの境界線を曖昧にする。中盤以降はエチオジャズ風味のサックスソロが場を支配し、ダブ的な過剰エフェクトも幻覚的な境地へと誘ってゆく。

(1-3)「Tristan Junk」のライヴ演奏動画

先行シングル(1-5)「Ascendance」は本作の核心だ。執拗に反復されるベース・オスティナートが聴き手の身体感覚を支配し、管楽器が何度も上昇するフレーズを重ねることで、タイトル通りの「上昇感」を生み出している。ここにはCANやヤキ・リーベツァイト(Jaki Liebezeit)から受け継いだクラウトロックの推進力と、ファロア・サンダース(Pharoah Sanders)以降のスピリチュアル・ジャズの高揚感が見事に接続されている。

(1-8)「Cafe San Marco」のような比較的静かな楽曲では、彼らがグルーヴ偏重のバンドではなく、繊細な音響空間を設計できるアンサンブルであることも示される。

後半の「TEN TWO」に入ると空気は一変する。(2-1)「Cherry Pie」以降、演奏はより粗削りで生々しくなり、スタジオの壁が取り払われたかのような解放感が広がる。(2-5)「Free Your Eyes」や(2-7)「Tiger」では反復が極限まで引き伸ばされ、メンバー同士の呼吸がそのまま音楽になる瞬間が幾度となく訪れる。まさに、ツアーを重ねた集団だけが到達できる共同体的エネルギーだ。

(2-1)「Cherry Pie」

興味深いのは、本作が「10周年記念盤」にありがちな回顧趣味に陥っていない点だ。過去作の要素を参照しながらもそれらを単に再演・再現するのではなく、モジュラーシンセや大胆なFXの導入によって音響的な射程をさらに拡張している。過去作の『LILA』(2023年)で見せた内省的な側面と、『Rise and Rise Again』(2018年)の祝祭性が、ひとつの巨大な流れとして統合された印象だ。

総じて今作は、ヨーロッパ・ジャズの現在地を示す重要作と言ってよいだろう。
ジャズ、クラウトロック、アフロビート、サイケデリア、電子音楽といった異なる文化圏の語彙を無理なく接続しながら、最終的には「身体が動く」という極めて原初的な音楽体験へ回帰していく。その圧倒的なグルーヴは、理屈を超えて聴き手の感覚を揺さぶり続ける。シェイク・スチューは10年を振り返るのではなく、10年目にしてなお進化の途中にあることを、この壮大な作品で証明してみせた。

Shake Stew プロフィール

シェイク・スチュー(シェイク・シチュー)は、ベーシスト/作曲家のルーカス・クランツェルビンダー(Lukas Kranzelbinder)を中心に2016年に結成されたオーストリア・ウィーン拠点のジャズ・アンサンブル。2人のドラマー、2人のベーシスト、3管編成という独特の編成を特徴とし、クラウトロックの反復性、アフロビート由来のポリリズム、スピリチュアル・ジャズの高揚感、集団即興を融合させたサウンドで注目されている。

2016年のデビュー作『The Golden Fang』とザールフェルデン・ジャズ・フェスティヴァルでの鮮烈な演奏を機に国際的評価を獲得。以後『Rise and Rise Again』(2018年)、『Gris Gris』(2019年)、『(A)live!』(2020年)、『HEAT』(2022年)、『LILA』(2023年)を発表し、ヨーロッパを中心に精力的なツアーを展開してきた。

国際メディアからはしばしばクラウトジャズ(krautjazz)の代表格として紹介され、2021年には German Jazz Prize「Band of the Year International」、2023年には Amadeus Austrian Music Award(Jazz/World/Blues部門) を受賞。オーストリアを代表する現代ジャズ・プロジェクトのひとつとして高い評価を受けている。

2026年には結成10周年を記念した2枚組アルバム『TEN ONE TWO』を発表。過去10年間で培ったグルーヴと即興性を総括しつつ、新たな章の幕開けを示す意欲作として大きな話題を呼んだ。

主なメンバーは、ルーカス・クランツェルビンダー(b)、マリオ・ロム(Mario Rom, tr)、ヨハネス・シュライアーマッハー(Johannes Schleiermacher, ts, fl)、イヴォンヌ・モリエル(Yvonne Moriel, as, fl)、オリヴァー・ポトラッツ(Oliver Potratz, b)、ニコラウス・ドルプ(Nikolaus Dolp, ds, perc)、ヘルベルト・ピルカー(Herbert Pirker, ds, perc)。現在はシンセサイザー奏者パブロ・エラスタイ=ファハルド(Pablo Herrasti-Fajardo)を加えた拡張編成でも活動している。

Shake Stew :
Lukas Kranzelbinder – double bass, electric bass, guembri, kalimba, log drums, Mellotron, tambourine
Yvonne Moriel – alto saxophone, flute, FX
Mario Rom – trumpet
Johannes Schleiermacher – tenor saxophone, flute, FX
Oliver Potratz – electric bass, Fender Bass VI, FX
Nikolaus Dolp – drums, percussion
Herbert Pirker – drums, percussion, log drums, tambourine, shaker

Guests :
JJ Whitefield – electric guitar (1-3)
Pablo Herrasti-Fajardo – modular synthesizer (2-7)

Shake Stew - TEN ONE TWO
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