ナナン、ルイスガ＆グスタヴィートの共演作『O Destino do Clã』
本当に良いアルバムは、1曲目を聴いた時点で名盤を確信する。そんな体験は滅多になく、せいぜい年に数回程度なのだが、そうやって“出会った”アルバムはきっと一生の宝物になる。
ブラジル・ミナスの3人の男性シンガーソングライター、ナナン（Nãnan）、ルイスガ（Luizga）そして グスタヴィート（Gustavito）が共演した2023年作『O Destino do Clã』は、まさにそんな稀有な作品との出会いだった。3人の美しいハーモニー、ナイロン弦ギターとゆったりとグルーヴを生むベース、空間を演出するパーカッションによる極上のアンサンブル。
ミナスジェライス州の山々に囲まれた自然の中にある小さな家で録音されたという本作には、いくつもの輝かしい瞬間が詰まっている。先住民とアフリカ、ヨーロッパそれぞれに由来する文化の豊穣な混淆、そうした伝統的アイデンティティの誇り、そしてブラジルの素晴らしいポピュラー音楽（MPB）の多くの系譜が、有機的なアコースティック・アレンジとヴォーカル・ハーモニーに溶け込む。すべてのパーカッションは身の回りにある種子、葉、果物のみを使用しているという。
アルバムは同郷ミナスのSSWフラヴィオ・トリス（Flavio Tris）のカヴァー(1)「Terra, Terra」で幕を開ける。私たちすべての偉大な命の源である地球の大地や海、旅の象徴である蝶、そして星へと想いを巡らせる名曲を見事にアレンジした素晴らしいトラックだ。
以降の曲は3人それぞれが持ち寄ったり共作したりしたオリジナル。自然や先祖への畏敬をテーマとした曲はどれも厳かな感情の昂りによって詩的に昇華されており、奇跡のような芸術体験を与えてくれる。
ほとんどがポルトガル語によるヴォーカル曲だが、ラストの(9)「O Destino do Clã」のみスキャットで演じらる。3本のガットギターと多層的なコーラスが限りなく美しい。
Gustavo Amaral (Gustavito) – vocal, guitar, bass, percussion
Renan Zanata (Nãnan) – vocal, guitar, bass, percussion
Luiz Gabriel Lopes (Luizga) – vocal, guitar, bass, percussion