シャーデー・マンギアラシーナ新譜『Prayers』
イタリアのピアニスト、シャーデー・マンギアラシーナ（Sade Mangiaracina）がすべての人々が関わるべき抽象的で神聖なものに捧げる2枚組の新作。1枚目と2枚目でそれぞれトリオの編成を変えており、『Prayers, vol. 1』はベースにマルコ・バルドシア（Marco Bardoscia）、ドラムスにジャンルカ・ブルニャーノ（Gianluca Brugnano）との一般的なピアノトリオ形態。『Prayers, Vol. 2』はベースにサルヴァトーレ・マルタナ（Salvatore Maltana）、トランペットにルカ・アキーノ（Luca Aquino）の変則トリオだ。さらに2枚を通じて、いくつかの曲では弦楽四重奏クアルテット・アルボラーダ（Quartetto Alborada）が美しいアンサンブルで彩っている。
情緒豊かで調和のとれたVol.1と、悲嘆に咽び泣くようなトランペットが印象深いVol.2の対比も素晴らしい。アルバムは今この時代・社会でもっとも必要と思われる”祈り”(1)「My Prayer」で始まる。イスタンブールのモスクへの旅路(1-2)「Journey to Aya Sophia」、数年前に夫と生まれて間もない赤子とともに訪れた聖地へと想いを馳せる(1-5)「Jerusalem」、イスタンブールのビザンチン時代の教会を描写する(2-3)「Kariye」、“壁に貼られた嘆願書”を意味する(2-6)「Una supplica nel muro」などコンセプトは明瞭で、昨今の世の中の情勢に彼女の深く心を傷つけられている様子がうかがえる。
楽曲は総じて美しいが、同時に人間のどうしようもない弱さ、愚かな残酷さのような陰の側面を隠そうともしない。例えば(1-4)「La marcia del sale」（塩の行進）での激しく混乱したようなシンセサイザーのソロなどは象徴的だ。彼女は今作での精神性について、次のように語っている：
スピリチュアリティは私の大きな関心ごとです。
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私たちすべての人生において、抽象的で無形のもの、神的なもの、私は単に神と呼んでいるが、他の人にとっては自然や宇宙かもしれないものに向かう傾向が、どのように、なぜあるのかを理解することです。私の人生に幸せな瞬間があれば、「ああ、神様、ありがとう！」と言うのは自然なことだし、ネガティブなことが起これば、私の視線はいつも天に向かって伸びる。それは自然なことで、いつも私に起こっていることなんです。私にとってそうであるなら、他のすべての人間にとってもそうなのだと思います。
(1-6)「Oración del Remanso」は唯一のカヴァー曲で、ソロピアノで演奏される。作曲はアルゼンチンのSSWホルヘ・ファンデルモーレ（Jorge Fandermole）で、彼の代表曲として数多くのアーティストによってカヴァーされている名曲だ。
Sade Mangiaracina 略歴
シャーデー・マンギアラシーナは1986年イタリアのシチリア島生まれ。6歳から18歳までクラシックのピアノを習い、いくつかのコンクールで優勝。高校卒業後はローマに移りジャズを学んだ。2008年に自身のカルテットを率いて『Philosophy』でデビューし、天真爛漫な演奏でイタリアン・ビバップの新たな才能と評された。
これまでに自身のリーダー作のほか、人気歌手のシモーナ・モリナーリ（Simona Molinari）とともに世界中のジャズクラブで演奏するなど活躍の幅を広げてきている。
本作は彼女のこれまでの作品と同じく、イタリアを代表するトランペッターであるパオロ・フレス（Paolo Fresu）が2010年に創立したレーベル、Tǔk Music からのリリース。
Sade Mangiaracina – piano
Marco Bardoscia – double bass, electric bass [vol.1]
Gianluca Brugnano – drums [vol.1]
Salvatore Maltana – double bass [vol.2]
Luca Aquino – trumpet [vol.2]
Quartetto Alborada :
Anton Berovski – violin
Sonia Peana – violin
Nico Ciricugno – viola
Piero Salvatori – cello