ヴマ・レヴィン・クインテット × AM.OK 驚異的なコラボ作品
南アフリカの気鋭ギタリスト/作曲家ヴマ・レヴィン（Vuma Levin）が、自身のクインテットとオランダ・アムステルダムの管弦楽団アモック（AM.OK）とともに制作した新作『The Past Is Unpredictable, Only the Future Is Certain』が素晴らしい。
南アフリカの先住民族の伝統的な音楽実践と楽器編成をベースとしつつ、ジャズ、ポピュラー音楽、カリブ海の音楽、そして西洋クラシック音楽のオーケストラというフィルターを通して構築された音世界は越境的で斬新。ジャズの枠を拡張するアルバムに仕上がっている。
クインテットのメンバーにはオランダの実力派のほか、スペイン・バルセロナを代表する若手ピアニストのシャビ・トーレス（Xavi Torres）も参加。さらにスペシャルゲストとしてカリブ海のオランダ領キュラソー島出身のパーカッショニスト、ヴァーノン・シャトレーン（Vernon Chatlein）が参加し多彩なリズムをもたらしている。
楽曲はすべてヴマ・レヴィンのオリジナル。管弦楽のアレンジはAM.OKの指揮者であり気鋭ジャズミュージシャンでもあるテイン・ワイベンガ（Tijn Wybenga）が担当しているようだが、楽曲構成、音色（編成や奏法）の選択、リズムの解像度の高さとその遊び心などすべてにおいて非常にレベルが高く、どの曲も多彩で聴きごたえ満載だ。
(1)「Yaka Yaka」はイントロで南アフリカの伝統的な弓琴（ブラジルのビリンバウのルーツである）が伝統文化への敬意の象徴として用いられ、その後の驚くほど音楽文化的に多様で発展的なジャズ・アンサンブルへの導入として見事な効果を上げている。ヴマ・レヴィンはこのアルバムではナイロン弦ギターとエレクトリック・ギターを使い分けているが、この曲での力強いナイロン弦ギターの演奏も素晴らしい。
AM.OKはつづく(2)「Gijima」から登場。現代的なラージ・アンサンブルのひとつの模範的な回答のような楽曲となっており、ヴマ・レヴィンとテイン・ワイベンガ（AM.OKの指揮者）という天才的な才能同士のコラボレーションが圧倒的な成果を挙げたことを図らずとも強調している。
要注目のギタリスト、Vuma Levin
ヴマ・レヴィンは南アフリカのヨハネスブルグ生まれ。父はブルースバンドでハーモニカを演奏し、母は合唱団で歌っていたという家庭に育った彼は14歳で初めてギターを手にし、南アフリカの伝説的ジャズ・ギタリスト、ジョニー・フーリー（Johnny Fourie, 1937 – 2007）に師事。ツワネ工科大学を卒業後にオランダに渡り、名門ヴァン・アムステルダム音楽院で音楽の修士号を優秀な成績で卒業した。
2014年、彼のクインテットはオランドの音楽賞「National Leg of the Keep an Eye Awards」で第2位を受賞。これまでに5枚のアルバムをリリースしている。
AM.OK を率いる Tijn Wybenga
管弦楽ジャズ・アンサンブル、AM.OKを率いるテイン・ワイベンガは7歳でピアノを弾き始め、15歳でアムステルダム音楽院にピアノ奏者として入学。のちに作曲、指揮に転向しジャズとクラシック、そしてエレクトロニックなど多様な音楽的好奇心と情熱で目を見張る活躍をしている。
実験的・前衛的な手法を試みつつ、広く聴衆に受け入れられるであろうエンターテインメントとしての音楽作品の創作に成功しており、オランダのジャズシーンを牽引する人物だ。
2021年にTijn Wybenga & AM.OK名義でアルバム『Brainteaser』をリリース。この作品も尖りつつも聴きやすく、圧倒的な才能を感じさせるものに仕上がっている。
Vuma Levin Quintet :
Vuma Levin – composer, vocals, guitar
Bernard van Rossum – tenor saxophone
Xavi Torres – piano
Marco Zenini – bass
Jeroen Batterink – drums
AM.OK :
Tijn Wybenga – conductor, arranger
Alistair Payne – trumpet
Nabou Claerhout – trombone
Federico Calcagno – bass clarinet
Pablo Rodriguez – violin
Yanna Pelser – viola
George Dumitriu – viola
Pau Sola – cello
Special Guest :
Vernon Chatlein – percussion