Strucky Yi 新譜『Setting Out』はNYジャズの最前線をゆく
中国出身、現在は米国ニューヨークで活動する作曲家/ピアニストのストラッキー・イー(Strucky Yi)が初のジャズ・アルバム『Setting Out』をリリースした。ギラッド・ヘクセルマン(Gilad Hekselman, g)やサイモン・ムーリエ(Simon Moullier, vib)といったNYの最前線で活躍するミュージシャンを迎え、楽曲ごとにバンド編成を変えつつ、高度なインプロヴィゼーションを交えながらストラッキー・イーの美しいオリジナル曲の演奏が繰り広げられる。
前作『Anabiosis for Orchestra』(2023年)ではオーケストラを起用し、クラシック/現代音楽の作曲家として音楽の構築性を表現の軸に据えたストラッキー・イーだが、今作では自身もピアニストとして即興を重視したジャズバンドを編成。その出来栄えを聴けば、これがクラシック音楽界の新たなスターが片手間の余興で生み出したような類のものではなく、才能にあふれた音楽家が、その魂を込めたアーティスティックな作品であると感じられると思う。自身の感性を育んできた様々な音楽のエッセンスが凝縮されている感覚は、ある意味で音楽のジャンルの境界を不要とする現代のクロスオーヴァー型の作家の典型とも言えるだろう。
その真価は(1)「Setting Out」からフルに発揮される。さすがオーケストラの作曲もこなすだけの才能を感じさせる楽曲自体の構築美に感心させられていると、マット・ペンマン(Matt Penman)のベースソロに続いてイーは流麗なピアノソロを披露。そしてスムーズにギラッド・ヘクセルマンのギターソロへと繋ぎ、後半ではニコラ・カミニティ(Nicola Caminiti)のサックスも自由に絡み合いながらエンディングへと向かってゆく。豊かな物語の展開も、ジャズらしいエキサイティングな演奏も、ジャズ・ピアニスト/作曲家としてのストラッキー・イーを強く印象づけるものとなっている。
今作に収録された11曲は、いずれもストラッキー・イーのオリジナルで、2020年から2022年にかけて書き下ろされた楽曲。コロナ禍のニューヨークで過ごした彼の感情が込められている。彼はアルバムに参加したミュージシャンへの感謝とともに、Instagramで下記のように綴っている。
葛藤、喜び、インスピレーション、不確実さ、執着、支え、疑念、励まし、そして別れ……。単なる音楽的な「出発(Setting Out)」であるだけでなく、コロナ禍における脆さや強さ、そして希望を映し出した、ほろ苦くも愛おしい記録でもあります。
instagram.com
Strucky Yi プロフィール
ストラッキー・イー、本名:易宇钦(Yì Yǔqīn / イー・ユーチン)は、中国出身の作曲家/音楽プロデューサー/マルチ・インストゥルメンタリスト。華南理工大学で音楽演奏とファイナンスの二重学位を取得後、アメリカに渡りマンハッタン音楽学院に在籍。現在はニューヨークを拠点とし、作編曲・プロデュースを中心に国際的な音楽活動を展開している。
ジャズを軸に、クラシック、現代音楽、映像音楽など幅広い領域を横断する作風を特徴とし、ピアノを中心とした室内楽的なアンサンブルと繊細なハーモニー感覚に定評がある。2023年にはオーケストラ作品『Anabiosis for Orchestra』を発表し、2026年には初のオリジナル・ジャズ・アルバム『Setting Out』をリリース。同作ではギタリストのギラッド・ヘクセルマン、ヴィブラフォン奏者のサイモン・ムーリエ、サックス奏者のニコラ・カミニティらニューヨークの第一線ミュージシャンと共演し、注目を集めた。
中国とアメリカ双方の音楽文化を背景に持つ若手クリエイターとして、現代ジャズの新しい世代を担う存在の一人である。
Strucky Yi – piano
Gilad Hekselman – guitar
Nicola Caminiti – saxophone
Simon Moullier – vibraphone
Joe Martin – bass
Matt Penman – double bass
Reuben Rogers – double bass
Miguel Russell – drums
Ian Wacksman – drums