トランペット奏者ナジェ・ノールデュイス、フォーキーな温かさと美しさを湛えた清廉なジャズ

Nadje Noordhuis - Full Circle

女性トランペット奏者ナジェ・ノールデュイス新作『Full Circle』

現在はニューヨークを拠点に活動するオーストラリア出身のトランペット奏者、ナジェ・ノールデュイス(Nadje Noordhuis)の新作『Full Circle』。ピアノにフレッド・ハーシュ(Fred Hersch)、ベースにトーマス・モーガン(Thomas Morgan)、ドラムスにルディ・ロイストン(Rudy Royston)という名手を迎えたカルテットでこの上なく耽美な音楽を聴かせてくれる。

(1)「Little Song」から、苦労人であるナジェ・ノールデュイスという音楽家の底知れぬ魅力が開花する。5拍子の抒情的なリズムに乗り、心の奥底にある言葉にできない感情を拾うようなナジェとフレッド・ハーシュの即興演奏の絡み合いはあまりに美しく感傷を誘う。

(1)「Little Song」

アルバムの収録曲9曲はすべてナジェ・ノールデュイスの作曲。コード進行は比較的シンプルで穏やかだが、カルテットの4人の詩人たちの解釈と創造力はそこから彼ら独自の世界を生み出し、桃源郷のような風景を描いてみせる。彼女のトランペットやフリューゲルホルンの音色は鋭さや冷たさではなく温かさが勝り、心を落ち着かせてくれる。

(3)「Northern Star」ではわずかに電子楽器が用いられ、神秘的・瞑想的な雰囲気を効果的に演出。
アップテンポの(5)「Full Circle」では静かに胸が高鳴り、4人が互いの呼吸を合わせ演奏する(8)「Nebula」は音楽をともに奏でることの喜びに満ちている。

ジャズなのだが、フォーク・ミュージックを聴いているような懐かしさや落ち着きも感じられる稀有な作品である。

(2)「Hudson」

天才的な音楽家であり、エンジニア、レーベルオーナー、教育者の顔も持つ

ナジェ・ノールデュイスの経歴は少々興味深いものがある。

シドニーで生まれ育った彼女は、最初の楽器として2歳のときにピアノを弾き始めました。7歳の頃には、彼女は学校に行く前にほかの子供たちにピアノのレッスンをしていたという。
3年生(Year3)のとき、彼女は学校のバンドで初めてトランペットを手に取り、その日のうちにCメジャースケールを吹くことができた。この年齢では通常数か月、場合によっては数年かかるような芸当だが、これによって彼女は注目され、アダルトコミュニティバンドで演奏するようになった。

そうした驚くべき才能にもかかわらず、彼女は高校でピアノとトランペットから離れてしまった。それは当時、彼女が憧れを抱くような女性トランペット奏者がいなかったからだ。
それでも音楽が好きだった彼女はシドニーから400マイル北にある“小さなヒッピーの町”にある学校で音響工学を専攻したが、女性エンジニアの雇用機会が限られていることに気付き、その後ほぼ気まぐれでメルボルンのヴィクトリア芸術大学でトランペットの学部に申し込みをし、何年も離れていた楽器への愛情を取り戻そうとした。即興演奏ができなかった彼女が入学の準備のために用意したものは、当時唯一知っていたジャズ・アルバム、マイルス・デイヴィスの『Kind of Blue』とデイヴ・ブルーベックの『Time Out』の演奏だったという。

ヴィクトリア芸術大学で学び始めて1年、転機は突然に訪れた。ケニー・ホイーラーの傑作『Angel Song』の(3)「Kind Folk」の編曲を任されたとき、初めて自分が作りたいと思っていた音楽の世界に触れた。それから彼女は自身で音楽を書き、自らのバンドで演奏をするようになった。

その後渡米し、ニューヨークの名門マンハッタン音楽学校で修士号を取得。しかしその後も生計を立てるのは楽ではなく、一度は音楽をやめ管理職に就いたが、それでもその道では心が満たされないという紆余曲折を経て再びトランペットを手に取っている。

2007年にはセロニアス・モンク国際ジャズ・トランペット・コンペティションでセミファイナリストに。満を持して2012年にデビュー作『Nadje Noordhuis』を自身のレーベル「Little Mystery Records」からリリースした。

近年では国際的に話題となったパキスタン出身の歌手アルージ・アフタブ(Arooj Aftab)の『Vulture Prince』や、アナット・コーエン(Anat Cohen)のアルバム『Triple Helix』にも参加するなど活躍の場を広げている。

現在、彼女はマンハッタン音楽学校、バークリー音楽大学、ハンター大学で教鞭を執りながら音楽活動を続けている。

Nadje Noordhuis – flugelhorn, trumpet
Fred Hersch – piano
Thomas Morgan – double bass
Rudy Royston – drums

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