ポルトガルSSWマヌエル・リニャレス新譜『Atlântico』は、ブラジル・ミナス新世代とNY現代ジャズも交叉する

Manuel Linhares - Atlântico

大西洋をテーマに越境的に描き出されるマヌエル・リニャレス『Atlântico』

ポルトガルのシンガーソングライター、マヌエル・リニャレス(Manuel Linhares)の2026年新作『Atlântico』がリリースされた。プロデュースは前作『Suspenso』に引き続き、現代ブラジル音楽の最重要人物のひとりであるアントニオ・ロウレイロ(António Loureiro)が務め、演奏にはロウレイロ(ds, synth, key)のほかニューヨークのジャズの第一線で活躍するグレン・ザレスキ(Glenn Zaleski, p)やオル・バレケット(Or Bareket, b)、小川慶太(Keita Ogawa, ds, perc)ら国際色豊かなメンバーが参加。録音はニューヨークとポルトガル・ポルトで行われ、名実ともに越境的な作品となっている。

メインとなるのは作曲者でもあるマヌエル・リニャレスの歌なのだが、メロディーラインは比較的抑制されており、聴き手によってはやや平坦に映るかもしれない。しかし本作の魅力はそこではなく、複雑な和声感覚と洗練されたアレンジ、そして卓越した演奏陣による即興表現にあるように感じられる。特にアントニオ・ロウレイロ、小川慶太とオル・バレケットによる所謂リズムセクションは非常に彩り豊かで、グレン・ザレスキのピアノもコード主体の伴奏をしつつ要所要所で彼らしいオブリガートやソロでバンドを牽引する。

(1)「Impérios da Devastação」

『Atlântico』(大西洋)というタイトルは単なる地理的概念ではなく、マヌエル・リニャレス自身の人生経験を反映しているようだ。彼はポルトガル沖約1,000kmのアゾレス諸島生まれで、ポルトを拠点に活動しながらニューヨークとも深く関わっており、本作ではそうした大西洋の両岸を行き来する彼のアイデンティティを表現。収録曲にも、随所に大西洋とそれを挟んだ両大陸にまつわるテーマが散見される。

すべてマヌエル・リニャレス作による全10曲。
少しの憂鬱さを伴うポルトガル音楽の抒情性、ブラジル音楽由来のリズムとハーモニー感覚、現代ジャズの即興性、さらには実験音楽的な質感が自然に溶け込む良作だ。

Manuel Linhares プロフィール

マヌエル・リニャレスは1983年ポルトガル・アゾレス諸島のファイアル島オルタ生まれ。幼い頃からポルトガル第二の都市であるポルトで育ち、2002年に地元の音楽学校に入りジャズを学び始めた。ヨーロッパやアメリカの優れたジャズから多くを学び、2010年にFado em Si Bemolというバンドでアルバム『Rec』をリリース、さらにソフィア・リベイロ(Sofia Ribeiro)とギー・デュヴィノー(Gui Duvignau)のアルバム『Porto』に参加した。
2013年に初のソロ作『Traces of Cities』を発表。2022年にはブラジル出身のアントニオ・ロウレイロをプロデューサーに迎え、『Suspenso』をリリースした。

Manuel Linhares – vocals
Glenn Zaleski – piano 
Or Bareket – double bass (2, 3, 4, 6, 7, 8, 9)
Keita Ogawa – drums (6, 9), percussion (1, 2, 3, 4, 8)
David Binney – alto saxophone (8)
Gil Silva – tenor saxophone (1)
Hugo Caldeira – trombone (3)
Felipe José – cello, violin (7)
António Loureiro – synthesizer, drums (1, 2, 3, 4, 7, 8), keyboards (1, 3)

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